2020年 年明け、我々人類は未曾有の出来事に巻き込まれました。
COVID-19、またの名を新型コロナウイルスと呼ばれる感染症による社会現象です。
このウイルスは、人類が直面したことのないほどの大規模なロックダウンを体験させました。
日本では、ロックダウンこそ実施されなかったものの行政から不要不急の外出を自粛するよう呼びかけるなど、民間に対し積極的なアプローチが行われました。
同年4月には緊急事態宣言が発令され、本格的な外出規制が幕を開けました。
その結果、2020年 飲食店(個人・法人)の倒産件数は過去最多の780件を記録。宿泊業に関しても、前年比+60%以上の倒産が発生しました。※1
前年を下回ったその他業種ですが、これは行政による積極的な各種支援策による影響であると言われています。
実際行政によるコロナ予算は累計77兆円となり、国民一人あたり61万円の支援が発生した計算です。※2
この支援のおかげで、事業を継続できた業種も多かったことでしょう。
これらの情報を見るに、コロナウイルスはとりわけ接客業にネガティブな影響をもたらしたようです。
この流れは、2023年上半期まで続きました。
2024年の現在となっては、様々なデータにより過去を振り返ることができています。
当時具体的なデータは出ていなかったものの、私たちSREEはその状況を重く捉えていました。
「何かできることがないか…」
すでに2020年夏の段階でコロナ対策グッズは山のように流通していましたが、まだまだ行き届いていない場もありました。
コロナ対策機器の一例として、「体表面温度測定カメラ」があります。商業施設で多くご覧になった方も多いでしょう。
これは非接触で被写体の表面温度を撮影し、画面上にその測定結果を出力する装置です。
一次スクリーニングとして、この対策機器は各方面で活躍しました。
しかし商業施設に設置されているような体表面温度測定カメラは、30万円以上で流通しており手に入りやすい価格とは言えませんでした。
そこで私たちは、安価で民生的な体表面温度測定カメラの開発に乗り出しました。
まず、市場に流通する表面温度計は、外観がハンディ式のものや防犯カメラ式のものがほとんどです。
ハンディ式表面温度計
ハンディ式の表面温度計は、被験者の手首や額にセンサーをかざし計測します。計測結果は、本体搭載のセグに表示されます。大変安価でそのほとんどが5,000円未満で入手できます。
とはいえこのハンディ式表面温度計は、手首にセンサーをかざすための測定者が必要で、計測にはひと手間かかります。入店直後、よく店員さんがこの表面温度計をかざす姿をご覧になった方も多いのではないでしょうか。
安価ですが、このひと手間や測定履歴が自動記録されないことは、値段なりの性能と判断できます。
防犯カメラ式表面温度計
防犯カメラ式の表面温度計では、温度センサーが搭載されたカメラから、計測結果をモニターに出力します。このカメラは映像内に映った被写体数人を一度に温度測定し、測定履歴も記録されます。そのため、1日数万人の来店者を抱える大型商業施設では、このタイプの表面温度計が設置されていたはずです。被写体は立ち止まる必要がありませんし、誰かが計測する必要もありません。
しかし30万円以上の価格帯が一般的でした。
情報をまとめると次のとおりです。
ハンディ式 | 防犯カメラ式 | |
使用方法 | 測定者が被験者(検出者)の手首や額に装置をかざし測定する。 | 被写体(検出者)の額表面温度を自動で測定する。 |
測定者 | 1名 | 0名 |
最大 検出者数 | 1名 | 20名 |
測定速度 | 3秒以下 | 1秒未満 |
測定精度 | ±0.3℃ | ±0.3℃ |
測定履歴 | 0件 | 数千件 |
電源 | 電池 | 家庭用コンセント |
メリット | 導入コスト:廉価 | 運用コスト:一度に20名を測定できる/履歴が自動記録される |
デメリット | 運用コスト:測定者が必要/履歴が記録されない | 導入コスト:高価 |
これらを踏まえ、導入対象を小規模施設に定め、一部運用コストを低減しつつ価格は最大10万円ほどを目指した商品開発を進めました。
カメラとセンサー、ディスプレイが一体化した外観、これ1台でオールインワンを実現しました。オールインワンにすることで、生産コストだけでなく流通コストを圧縮できます。
初回サンプルが出来上がった当初、測定温度に問題があり調整作業と検証に何日も費やしました。調整作業の結果、測定精度は±0.3℃となり測定履歴も50,000件の保存を可能にしました。高価なモデルと同等のスペックです。
スタンドを使用した設置の他に、壁面への設置や三脚を使用した設置も可能です。あらゆる場所に設置を行なえます。
基本の使用手順は次のとおりです。
①被写体1名が製品の前に立つ。
②製品は顔を検出し額部分の表面温度を測定する。
③測定結果をディスプレイに表示、内部メモリーに記録する。
④測定結果が正常温度でないと警告音が鳴る。
正常でない温度を警告温度と呼び、この警告温度の表示は赤色表示されます。
スマートフォンやタブレットと連動することにより、警告温度確認時にプッシュ通知を受けることも可能です。
システム操作のインターフェースも拘りました。
WEBコンソール画面を用意し、ブラウザにIPアドレスを入力することで本体アクセスできます。このWEBコンソール画面では、警告温度の変更や記録データの閲覧、ダウンロード等を実行可能です。できる限り直感的な操作が可能なよう、タブをわけて情報へすぐにアクセスできるようにしました。また、relica G2同様にファームウェアアップデート機能を搭載することで販売後も継続可能な性能改善に努めました。
最後に商品名を "relicaクイックFDサーモ" と名付けました。
2021年発売当初は、深部体温と表面温度とを誤解されてしまうケースも多くありましたが、コロナ対策機器として社会認知が上がるにつれ、その誤解も解かれていきました。
※深部体温…脳や臓器など体の中心の機能を守るために一定に保たれる体温。脇で測定する水銀体温計の結果が心部体温にあたる。深部温度に対し表面温度は皮膚温であるため、外気が測定結果に影響を与える。
そうして徐々に導入が進んでいきます。
まず名古屋市が市営で行なう名古屋市市民活動推進センターに導入され、その後、飲食店を中心とした一般の店舗にも広まっていきました。
クイックFDサーモが行政の補助金対象となるケースがあったことも、導入にポジティブな影響をもたらしました。
得られたフィードバックから、ささやかながらコロナ禍の経済環境を支えられそうな実感を得ました。
💡フィードバック
瞬時に検温結果が分かる点が非常に便利です。音声で検査結果が判別できるので職員だけではなく、来客にとっても安心感があります。マスクを着用していても測定することができるので、混雑することもありません。
こういった後押しもあり発売から1年、PR無しでも2,500店舗以上導入されました。
その後も予定通りアップデートを繰り返し、マスク未着用者への音声案内機能を追加したり、外気の影響を受けにくいよう測定アルゴリズムを調整したりなど性能改善を実施していきました。
2021年中頃からは、多様な設置方法にポールスタンドも加わりました。
改善の甲斐もあってか、2022年以降もその勢いは衰えることなく、生産台数を増加させていきます。
実際たまたま入店した飲食店で、当製品が使用されている姿を目撃したメンバーもいます。入店時刻は20時ごろ、ブリティッシュPUBのようなお店でした。その店舗では、入口付近にクイックFDサーモを設置し来店者を出迎えています。
測定後、警告温度が表示されないことに安堵したところ、すぐに席へ案内されお酒を注文したそうです。店内を眺めると全20席ほどありました。
奥ではカウンターに座る方々が店内に設置されたテレビを見ながら、FIFAワールドカップに熱狂しています。店員さんと楽しく談笑する姿も見えます。
その中で驚いたのは、クイックFDサーモの存在が店内に完全に溶け込んでいることでした。
コロナウイルスが蔓延する以前のような営業は、対策機器なくして維持できなくなってしまったということです。しかしこれはコロナ対策機器が人々の生活に浸透し、違和感なく生活を支えている証左であります。
この時、一度変化したこの状況は不可逆的かつ継続的でないかとぼんやり考えたそうです。
2023年5月。
感染症法上2類に分類されていた新型コロナウイルスは、明確化した対策や致死率が下がってきたことなどを理由に、季節性インフルエンザと同じ5類に移行が決まりました。
その後、本マガジン投稿時点、緊急事態宣言は発令されていません。
この時期から、クイックFDサーモに関するお問い合わせも段々と減っていきましたが、人々は過去に戻ることなく生活しています。
2023年の調査によると、感染リスクを懸念している人は全体の半数以上になり、脱マスクの意思も1割に留まっていることから、やはりあの状況は不可逆的だったことがわかります。*3
Afterコロナ時代、2024年。
コロナ禍の国内経済を支える、様々な支援策の一端を担えたことは私たちの誇りです。
コロナ対策に関するトレンドがどのように変化しても、「アイデアからあんしん体験を」という私たちのコンセプトは変わりません。
アイデアを生み出し、あんしんのある社会をどう実現できるか。
その考えを基軸にして、これからもプロダクトやサービスをご提供していきます。
relicaのコンセプトやビジョンのメッセージはこちらから。
※1.帝国データバンク:"全国企業倒産集計2020年度"より引用
https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/20nendo.html
※2.NHK:" あなたの「コロナ予算」かかった費用77兆円の使い道をデータで検証"より引用
https://www3.nhk.or.jp/news/special/covid19-money/
※3.参考:株式会社アイスタット|統計分析研究所:"2023年「今後のマスク着用&コロナワクチン接種に関する調査」"
https://istat.co.jp/investigation/2023/04/result